右卵巣摘出手術を受けた翌日にトイレで倒れ急変し,その後出血性ショックで死亡した事例
右卵巣摘出手術を受けた翌日にトイレで倒れ急変し,その後出血性ショックで死亡した事例
東京地裁 平成20年2月28日判決
事件番号 平成17年(ワ)第6023号
本件は,被告病院において右卵巣摘出手術を受けた翌日,術後初回のトイレ歩行時にトイレで倒れて急変した際,被告病院医師らが,肺動脈血栓塞栓症によるショック状態に対する処置を行わず,その後も出血源の検索及び止血措置を行わず,出血している患者に対する投与が禁忌とされるアクチバシン(血栓溶解剤)を投与したため,患者は死亡するに至ったと主張して,遺族である原告らが,被告に対し,不法行為(使用者責任)又は診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償を求めた事案である。
裁判所は,被告病院医師らには,肺動脈血栓塞栓症によるショック状態に対する各措置を怠った過失,出血源の検索及び止血措置を怠った過失があったと認めることはできないとし,また,患者の容態は極めて重篤な瀬戸際の状態にあり,その原因として肺動脈内の広範な血栓が考えられ,これに対する治療法としてはアクチバシンの投与(血栓溶解療法)のみが挙げられ,出血のリスクの程度を考慮してもその投与による症状の早急な改善が見込まれる状況にあり,むしろこれを行わなければ救命は困難な状況にあったことからすれば,被告病院医師が,患者に対し,アクチバシンを投与したことには特段の合理的理由があったといえ,これについて過失があったということはできないとして,原告らの請求を棄却した。