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開腹手術を受けた患者が多臓器不全により死亡したが,諸検査義務及び転科措置義務の違反はなかったとした事例

千葉地裁 松戸支部 平成22年6月4日

平成18年(ワ)第573号

        主   文

 

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して4568万7868円及びこれに対する平成18年8月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 被告らは,原告B及び原告Dそれぞれに対し,連帯して2834万3934円及びこれに対する平成18年8月19日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

第2 事案の概要

 本件は,甲C(以下「C」という。)が,被告〇の設置する〇附属A病院(以下「被告病院」という。)に入院中,腸管型ベーチェット病に由来して腸管穿孔となり,その後,死亡したことについて,Cを相続した原告らが,被告病院の勤務医であった被告丙において,入院期間前の通院期間中から腸管型ベーチェット病を疑って各種検査を実施したり内科への転科措置を採ったりする義務を怠ったなどと主張して,被告丙に対して不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告〇に対して診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)による損害賠償請求権に基づき,被告らの連帯による,損害合計1億0237万5736円(内訳は,原告Aにつき4568万7868円,原告B及び原告Dにつき各2834万3934円である。)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年8月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 1 争いのない事実等(証拠は各項に掲記)

  (1) C(昭和〇年〇月〇日生まれ)は,平成15年7月初めころから高熱が出たため,医療法人〇診療所(以下「〇診療所」という。)において診察を受けたが,その後,口内炎や陰部潰瘍が生じる等したことから,同月15日,国保松戸市立病院(以下「松戸市立病院」という。)産婦人科を受診し,同月22日,同病院の皮膚科の医師から被告病院皮膚科への紹介を受けた(以下,平成15年中の出来事については,単に月日のみを示すこととする。)。(乙A1〔4頁〕)

  (2) Cは,7月23日,被告病院を受診し,Cと被告〇大学との間で診療契約が締結された。

 Cは,同日,同月24日,同月30日,8月7日,同月14日,同月21日及び同月27日(合計7回),被告病院皮膚科に通院して,被告丙による診察を受けた(以下,7月23日から8月27日の診察時までの期間を「通院期間」ということがある。)。

 ア 7月23日の診察時

 被告丙は,Cに対し,コルヒチン(白血球機能抑制剤),ロキソニン(非ステロイド系消炎鎮痛剤),ムコスタ(胃薬),リンデロンVG軟膏(陰部潰瘍に対するステロイド外用剤)及びアフタッチ(口腔内アフタ性潰瘍に対する貼付錠)を処方した。(乙A1〔2頁〕)

 イ 7月24日の診察時

 被告丙は,Cに対し,尿道カテーテルを留置し,また,Cから勤務先を休みたいので,病名のみを記載した診断書を作成してほしいとの依頼を受けて,「ベーチェット病 ……現在症状は増悪している。疲労やストレスなどで今後さらなる増悪の恐れがあるため約1ヶ月程度の自宅安静と今後の定期的な通院加療が必要と思われる。」などと記載した診断書(乙A1〔6頁〕)を交付した。(乙A1〔2~3頁〕,26)

 ウ 7月30日の診察時

 被告丙は,Cに対し,上記アと同様の内容の薬剤を処方した。(乙A1〔3頁〕)

 エ 8月7日の診察時

 被告丙は,Cの下腿部(右2か所,左1か所)に紅斑が出現したことから,結節性紅斑を疑い,上記アに追加して,リンデロン(ステロイド剤)の内服を処方した。(乙A1〔3頁〕)

 オ 8月14日の診察時

 被告丙は,Cが少なくとも腹部膨満感を訴えたため(Cの訴えの内容については争いがある。),上記ア,エに追加して,プルゼニド(下剤)を処方し,また,口腔内アフタ性潰瘍の影響で食事が摂取できない状態であったことから,エンシュアリキッド(高カロリー栄養剤)も処方した。(乙A1〔7頁〕)

 カ 8月21日の診察時

 被告丙は,Cに対し,プルゼニドに換えてアローゼン(下剤)を処方した。また,Cに対する血液検査が実施された。(乙A1〔7頁〕)

 キ 8月27日の診察時

 被告丙は,Cの腹痛の訴えを聞き,Cが腸管型ベーチェット病に罹患している可能性を考えた(これより前の診察時に,Cが腹痛を訴えたことがあったか否か,被告丙がこれより前の診察時において腸管型ベーチェット病を具体的に疑うべきであったか否かについては,いずれも争いがある。)。(乙A1〔7~8頁〕,被告丙本人)

  (3) Cは,8月27日,被告丙の診察を受けた後,被告病院内科の診察を受け,被告病院内科に入院した(以下,同日から死亡時までの期間を「入院期間」ということがある。)。

 Cは,8月30日,開腹手術を受け,右半結腸全部及び小腸の広範囲を切除された(以下「本件手術」という。)。(乙A5の1〔9~10,89~93頁〕)

  (4) Cは,10月18日午前9時23分,死亡した。

 2 争点

  (1) 義務違反の有無

 ア 7月30日の診察時における検査等の義務違反

 イ 8月7日の診察時における転科措置等の義務違反

 ウ 8月14日の診察時における入院措置等の義務違反

  (2) 因果関係

  (3) 損害

 3 当事者の主張

  (1) 争点(1)(義務違反の有無)について

 (原告ら)

 ア 7月30日の診察時における検査等の義務違反

 以下の事情に照らすと,7月30日の診察時において,被告丙は,尿検査,血液検査,生化学検査及び便潜血検査等の全身検査を行う義務を有していたにもかかわらず,これらの検査を行わなかった。

 (ア) 被告丙は,ベーチェット病の疑いのある患者として松戸市立病院からCの紹介を受け(乙A1〔4頁〕),Cの症状はベーチェット病の典型的な主症状であった。また,松戸市立病院からの紹介状(乙A1〔4頁〕)に,「胃症状+」との記載があったこと,Cが通院期間の当初から腹痛,腹部膨満感及び食道の違和感を訴えていたことからすると,被告丙は,Cに消化管の症状が出ているとの認識を有し,腸管型ベーチェット病の消化管病変発現の可能性を認識していた。

 (イ) ベーチェット病の患者は,血栓を生じやすいという基本的性格(細小血管の透過性亢進及び易血栓形成性)を有し,循環障害が発生する可能性がある。これが消化管病変にかかわっていることからすれば,被告丙は,Cが腹痛,腹部膨満感等の消化管症状を訴えていたのであるから,血液検査により赤沈値,CRP値,凝固能亢進の有無等をモニターし,これらの傾向があるのであれば,抗凝固剤による治療を行うべきであった。

 また,これらの検査は,投薬の効果及び副作用の有無を確認するためにも必要なものとされているのであるから,少なくとも,被告丙は,投薬を開始した(7月23日)後の診察日である同月30日の時点で,尿検査,血液検査,生化学検査及び便潜血検査等の全身検査を実施しなければならなかった。

 イ 8月7日の診察時における転科措置等の義務違反

 以下の事情に照らすと,8月7日の診察時において,被告丙は,血液検査(凝固能亢進の有無を含めた検査),内科的検査のための内科への転科措置を行い,便潜血検査,腹部超音波検査(腸管壁の肥厚や拡張などを捉えるため),腹部レントゲン検査やCT検査等の画像検査,上部・下部消化管内視鏡検査等を行い,検査結果によって血栓形成予防の治療,また,消化管病変の可能性があるのであれば,これに対する内科的治療を開始する義務を有していたにもかかわらず,内科ヘの転科措置やこれらの検査を行わなかった。

 (ア) この時点において,それまでの口腔内アフタと外陰部潰瘍に加えて,下肢に結節性紅斑様皮疹が出現し,統計上,腸管型ベーチェット病などの特殊型病変の発現可能性が通常より高いカテゴリーに属するに至った。

 (イ) Cの腹痛や腹部膨満の症状が,7月24日にバルーンを留置した後も改善されなかったことに照らすと,排尿ができないことの痛みや腹部膨満等とは異質のものであると考えられた。

 (ウ) Cは,ほとんど食事が摂れない状況であったにもかかわらず,腹痛や腹部膨満感を訴え,8月7日の診察時にはこれが徐々に悪化していたことからすれば,これらの腹部症状は,便秘症状ではなく,ベーチェット病特有の細小血管の透過性亢進及び易血栓形成性による消化管の浮腫性変化,虚血性病変が発生している危険性を疑うべきであった。

 ウ 8月14日の診察時における入院措置等の義務違反

 以下の事情に照らすと,8月14日の診察時において,被告丙は,Cを内科に入院させて点滴による栄養補給を行って,Cの体力を維持及び回復しつつ,血液検査(凝固能亢進の有無を含めた検査)のみならず,便潜血検査,腹部超音波検査(腸管壁の肥厚や拡張などを捉えるため),腹部レントゲン検査,CT検査等の画像検査と上部・下部消化管内視鏡検査等を行い,検査結果によって血栓形成予防の治療や腸管病変に対する内科的治療を開始する義務を有していたにもかかわらず,Cに対し,「入院したければ入院してもいいが,入院しても自宅静養と変らない。入院しても,病院でできるのは栄養を点滴することぐらいだ。」などと告げ,入院させる措置やこれらの検査を行わなかった。

 (ア) Cは,8月14日当時,更に腹痛と腹部膨満が進み,便秘症状ではなく,腸管病変の可能性が極めて高かった。

 (イ) 被告丙は,遅くとも8月14日の診察時において,Cが,低栄養により体力及び抵抗力が低下し,かなり衰弱した状態であることを認識していた。

 (被告ら)

 ア 原告らの主張ア(7月30日の診察時における検査等の義務違反)に対して

 否認する。

 以下の事情に照らすと,7月30日の診察時において,尿検査,血液検査,生化学検査及び便潜血検査等の全身検査を開始する義務はなかった。

 (ア) Cは,被告丙に対し,7月30日の診察時以前において,腸管型ベーチェット病を疑わせる消化管症状の訴えや腹痛の訴えを一切しなかった。(乙A1〔3頁〕)

 (イ) 細小血管の透過性亢進及び易血栓形成性がベーチェット病の診断基準又は必発症状とされているわけではなく,ベーチェット病だからといって,臨床所見にかかわらず,直ちにこれらを疑って検査等を行う必要はなかった。

 また,Cに対する投薬の内容からしても,投薬開始(7月23日)から1週間で,薬剤の効果及び副作用の有無を確認するための検査が必要になったということはできない。

 イ 原告らの主張イ(8月7日の診察時における転科措置等の義務違反)に対して

 否認する。

 以下の事情に照らすと,8月7日の診察時において,消化管の浮腫性変化,虚血性病変が発生している危険性を疑って,原告らが主張する諸検査や内科への転科措置を行う義務はなかった。

 (ア) 口腔内アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍及び結節性紅斑様皮疹等の症状が出現したからといって,腸管型ベーチェット病などの特殊型病変の発現可能性が通常より特に高まったとはいうことはできない。

 (イ) Cは,被告丙に対し,8月7日の診察時以前において,腸管型ベーチェット病を疑わせる消化管症状の訴えや腹痛の訴えを一切しなかった。(乙A1〔3頁〕)

 (ウ) ベーチェット病だからといって,直ちに細小血管の透過性亢進及び易血栓形成性を疑うべきであるということはできない。

 ウ 原告らの主張ウ(8月14日の診察時における入院措置等の義務違反)に対して

 否認する。

 以下の事情に照らすと,8月14日の診察時において,Cに腸管病変が発生していた可能性が極めて高いということはできず,原告らが主張する諸検査,内科的治療及び入院措置を行う義務はなかった。

 (ア) Cは,被告丙に対し,8月14日の診察時以前において,腸管型ベーチェット病を疑わせる消化管症状の訴えを一切しなかった。(乙A1〔2,3頁〕)

 (イ) Cは,8月14日の診察時に,被告丙に対し,その前夜にお腹が張ったなどと腹部膨満感があった旨を訴えたが(乙A1〔7頁〕),これは,リンデロンの副作用又は便秘によるものと考えられるものであった。

  (2) 争点(2)(因果関係)について

 (原告ら)

 被告丙は,原告らが上記(1)で主張した義務を怠ったことにより,Cが腸管型ベーチェット病を発症していることの発見が遅れるなどした結果,Cは,腸管穿孔による汎発性腹膜炎を来して敗血症に至り,結局,肺動脈血栓症,肺梗塞により死亡するに至った。したがって,被告丙の過失又は被告病院の不完全履行とCの死亡の結果との間に因果関係がある。

 (被告ら)

 否認する。

 仮に早期に血液検査を行っていたとしても,一般的な炎症反応(白血球増多,赤沈亢進,CRP陽性)が出ていたかもしれないが,Cから腹痛,下痢及び下血等の訴えもない状況では,このような血液検査の結果のみから腸管型ベーチェット病を疑うことなどできなかった。また,仮に,腸管型ベーチェット病を疑ったとしても,腸管穿孔や腹膜炎症状が認められない状況では,手術を実施することなど考えられない。

 一般に穿孔性潰瘍が形成されれば激しい腹痛を伴うこと,8月28日に実施された腹部CT検査でも腸の炎症反応を認めるのみで,穿孔があったとは考えられないことからすると,Cの穿孔性潰瘍は,同日から同月30日までの数日間に急速かつ広範囲に形成されたと考えられ,極めて短期間に急激に悪化した希有な例ということができる。

 したがって,たとえ早期に血液検査を行い,炎症反応所見を確認できたとしても,コルヒチンやステロイドによる対処療法が基本であった。

  (3) 争点(3)(損害)について

 (原告ら)

 ア Cの損害 合計7306万8856円

 (ア) 医療過誤により生じた治療費,介護費用 198万9380円

 Cは,8月27日から同月31日までの治療費等として48万2440円,9月1日から同月30日までの治療費等として150万6940円(課税部分消費税含む)を支払った。(甲C1,2)

 48万2440円+150万6940円=198万9380円

 なお,Cの相続人である甲太郎(以下「太郎」という。)及び原告Aは,Cが死亡した後,被告病院から同年10月分の治療費等として80万6940円の請求を受けたが(甲C3),これを支払っていないところ,本訴請求の訴状をもって,被告〇大学に対する損害賠償請求権を自働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をする。

 (イ) 死亡による逸失利益 4107万9476円

 Cの収入について平成15年の賃金センサスの女性労働者高専短大卒平均年収額である344万8600円を基礎とし,就労可能年数を満67歳までの39年間とし(対応するライプニッツ係数17.01704067),生活費控除率を30%として算定すると,Cの逸失利益は4107万9476円となる。

 344万8600円×17.01704067×(1-0.3)=4107万9476円

 (ウ) 死亡慰謝料 3000万円

 Cは,丁谷大介(以下「丁谷」という。)と婚約し,人生における大きな慶びを間近にした状況の下で,激痛に苦しんで死亡した。その無念さは筆舌に尽くし難く,その精神的損害を慰謝するには,少なくとも3000万円を必要とする。

 イ 太郎及び原告ら3名固有の損害

 (ア) 慰謝料 合計2000万円

 太郎及び原告ら3名は,自己の子又は姉妹であるCを失った上,Cの苦痛を目の当たりにして,その最後を看取らねばならなかった。その精神的苦痛は筆舌に尽くし難く,その精神的損害を慰謝するためには,少なくとも太郎及び原告ら3名につき各500万円を必要とする。

 (イ) 弁護士費用 合計930万6880円

 医療事件における訴訟追行上,弁護士の存在は不可欠であり,標準報酬額のうち930万6880円(上記ア及び(ア)の合計額9306万8856円の約1割)を被告らに負担させることが公平である。内訳は,太郎及び原告Aにつき各415万3440円,原告B及び原告Dにつき各50万円とする。

 ウ 相続関係

 (ア) 太郎はCの父,原告AはCの母であるところ(甲B1),太郎及び原告Aは,各2分の1の割合でCの被告らに対する損害賠償請求権を相続した。

 (イ) 原告B及び原告Dはいずれも太郎の子であり(甲B1),太郎が平成20年10月31日に死亡したところ,原告B及び原告Dは,各2分の1の割合で太郎が上記(ア)で相続したCの被告らに対する損害賠償請求権を相続した。

 太郎の相続については,平成21年2月10日,千葉家庭裁判所松戸支部において,原告B及び原告Dの限定承認の申述が受理され,同日,太郎の相続財産管理人として原告Bが選任された(同庁平成21年(家)第10068号事件)。

 エ まとめ

 (ア) 原告A 4568万7868円

 7306万8856円(ア)×2分の1(相続割合)+500万円(イ(ア))+415万3440円(イ(イ))=4568万7868円

 (イ) 原告B及び原告D 各2834万3934円

 550万円(a)+2284万3934円(b)=2834万3934円

 a 原告B及び原告Dの固有のもの 各550万円

 500万円(イ(ア))+50万円(イ(イ))=550万円

 b 太郎からの相続分 各2284万3934円

 4568万7868円(太郎の相続分)×2分の1(原告B及び原告Dの相続割合)=2284万3934円

 (被告ら)

 原告らの主張ア,イ,エは争い,原告らの主張ウについて,(イ)のうち太郎の相続について相続財産管理人が選任されたことは認め,その余は不知。

 腸管型ベーチェット病は難治な例が多く,たとえ1回目の手術が成功したとしても,その後の再発の可能性が高いから,健常人と同じ程度の労働能力を就労可能期間にわたって維持できた可能性は高くなかった。(甲B3〔21頁〕,乙B3〔209頁〕,4〔220頁〕)

第3 当裁判所の判断

 1 争点に対する判断の前提となる事実関係について

 上記第2の1記載の争いのない事実等並びに証拠(各項に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

  (1) 被告病院における診療経過等

 ア Cが被告病院に通院するに至った経緯

 Cは,7月10日ころ,体温が約40度に達したため,〇診療所を受診し,インフルエンザとの診断を受けたが,そのころから口内炎や陰部潰瘍が生じる等したことから,同月15日,松戸市立病院を受診した。そして,同月22日,同病院の皮膚科の医師からベーチェット病の疑いがあるということで,被告病院皮膚科への紹介を受けた。(甲A4,5,乙A1〔4頁〕,26,証人丁谷,原告D本人,被告丙本人)

 イ Cの通院期間中の被告病院における診療経過

 この期間の診療経過の概要は,上記第2の1(2)記載の内容に加えて,以下のとおりである。

 (ア) 7月23日の診察時

 Cは,被告丙に対し,3週間前から,胃部症状があったがなくなり,40度の高熱が1週間続き(なお,同診察時においては平熱に回復し,8月27日に入院するまでの間,特に高熱になったことはなかった。),また,頭痛があったがなくなった旨を説明した。被告丙は,Cの口内にアフタ性潰瘍が多発し,深い陰部潰瘍があったことを認めたため,ベーチェット病に罹患している疑いがあると診断した。

 被告丙は,Cから,これまでにはアフタ性潰瘍が多発したり,陰部潰瘍が生じたりしたことはなかった旨を聴き取り,また,Cに対し,全身図(乙B1〔138頁〕)を示しながら,ベーチェット病の主症状及び副症状(これには急性腹症も含まれる。)を説明した。

 Cは,被告丙に対し,排尿できないため辛い旨を訴えて,導尿カテーテルにより750ccの尿を排出した。この際,被告丙は,完全に排尿させるためにCの下腹部を押したが,Cが腹痛を訴えたことはなく,また,体温が高いと感じられなかった。(乙A1〔2,5頁〕,26,原告D本人,被告丙本人)

 (イ) 7月24日の診察時

 被告丙は,Cが陰部の痛みのため排尿及び排便ができないことを訴えたため,Cに対し,尿道カテーテルを留置した。この際,被告丙は,カテーテルが適切に挿入されていることを確認するためにCの下腹部を押したが,Cが腹痛を訴えたことはなく,また,体温が高いと感じられなかった。

 なお,Cは,同診察後,原告Dとともにうどんを食べてから,一人で,勤務先に診断書(乙A1〔6頁〕)を提出に赴いた。(乙A1〔2~3頁〕,6,26,原告D本人,被告丙本人)

 (ウ) 7月30日の診察時

 被告丙は,Cの陰部潰瘍が存在し,口腔内アフタ性潰瘍が増加していたものの,陰部潰瘍が縮小していたことから,7月23日に投薬した効果があったと判断して,同日と同様の薬剤を処方した。なお,この診察時の内容を記載した診療録中に,Cが腹痛を訴えたことに関する記載はない。

 なお,Cは,同診察後,原告Dとともにそばを食べた。(甲A4,乙A1〔3頁〕,6,26,原告D本人,被告丙本人)

 (エ) 8月7日の診察時

 被告丙は,Cの下腿部(右2か所,左1か所)に紅斑が出現し,Cが歩けないほどの痛みである旨を訴えたことから,結節性紅斑を疑い,リンデロンの内服を追加で処方した。

 また,Cは,被告丙に対し,口内炎が痛くて食べることができない旨を訴えた。なお,この診察時の内容を記載した診療録中にも,Cが腹痛を訴えたことに関する記載はない。

 なお,Cは,同診察後,原告Dとともに,プリン,ヨーグルト等の食べ物を買い,また,洋服店に寄り道をして帰宅した。(甲A4,乙A1〔3頁〕,6,26,原告D本人,被告丙本人)

 (オ) 8月14日の診察時

 被告丙は,Cの陰部潰瘍及び結節性紅斑の痛みが減るなど改善しつつあったことから,リンデロンの内服を継続することにし,また,Cが口内炎の痛みで食べることができない旨を訴えたため,エンシュアリキッドも処方した。

 被告丙は,Cが,前夜(8月13日夜)にお腹が張ったなどと腹部膨満感を訴えたため,これがリンデロンの副作用又は便秘によるものであると判断して,プルゼニドを処方した。

 被告丙は,この診察後にCに血液検査を受けさせる予定であったが,診察終了時に,Cに対し,血液検査を受けるよう指示することを失念したため,この際には血液検査は実施されなかった。

 なお,Cは,同診察後,原告Dとともにそばを食べた。(乙A1〔7頁〕,6,26,原告D本人,被告丙本人)

 (カ) 8月21日の診察時

 Cの陰部潰瘍は痛みが残るものの縮小しつつあり,また,結節性紅斑は目立たなくなり,少量であれば食物を摂取できるほどまでに口内炎も改善した。被告丙は,Cがエンシュアリキッドを飲みにくそうであったことから中止した。

 被告丙は,Cが,腹が張って力んだが排便できなかったなどと訴えたことから,下剤をプルゼニドからアローゼンに変更した。

 Cは,この診察の後,血液検査を受けたが,その結果は,白血球(WBC)3.1(x10^3/ul),ヘモグロビン値(Hgb)9.0(g/dl),血小板(PLT)186(x1000/ul),総蛋白(TP)6.6(g/dl),アルブミン値(Alb)3.0(g/dl),CRP19.2(mg/dl)であった。(乙A1〔7頁〕,2〔2頁〕,23〔1,11頁〕,26,被告丙本人)

 (キ) 8月27日の診察時

 Cが,被告丙による診察を受ける順番を待っていたところ,Cの体調が悪そうな様子であったことから,被告病院看護師は,Cを診察室内のベッドに誘導した。Cは,腹を抱えて丸くなって寝た。

 Cは,被告丙に対し,8月21日の診察時以後,腹が張って体調が悪かったこと,現状の体調が従前と異なり特に悪く,腹痛もあること及び被告病院内科を受診することを伝えた。被告丙が確認したところ,Cの陰部潰瘍は更に縮小しつつあり,また,結節性紅斑は消失し,口内炎も更に改善していたが,腹痛の訴えがあったことから,この診察時に初めてCに腸管型ベーチェット病が発症した疑いがあると考えた。

 被告丙は,Cの内科受診の順番が呼ばれたため,自らの診療の最中であったが,急いで診療録の記載をして,Cが受診する内科に診療録を引き継いだ。(乙A1〔7~8頁〕,26,被告丙本人)

 ウ Cの入院期間中の被告病院における診療経過

 (ア) 本件手術までの経過

 a Cは,8月27日,被告病院内科に入院したが,その際には,腹部圧痛(D.S.〔Druckschmerz〕)があったが,筋性防御はなく,レントゲン検査(乙A9,10)でも腸管穿孔の所見はなかった。(乙A2〔2頁〕)

 b Cは,8月28日,腹部CT検査(乙A20)を受けた結果,腸管がやや肥厚していることを認められ,また,炎症所見が疑われたが,消化管の穿孔はなかった。被告病院内科の東田医師は,太郎及び原告Aに対し,Cが危険な状態にあり,急変時にはフルコース(心マッサージ,気管内挿管による人工換気,昇圧剤の投与)で対応する旨を説明した。(乙A3〔15~16頁〕,24)

 c Cは,8月30日,腹部全域に圧痛及び筋性防御がみられ,腹部CT検査(乙A21)によっても消化器穿孔の所見があったことから,西沢医師の執刀による本件手術を受けた。Cは,小腸から大腸右側にかけて広範囲に多数の潰瘍が穿孔を伴い,特にダグラス窩に落ち込んだ回腸はぼろぼろの状態で,横行結腸左側まで穿孔性潰瘍が形成されていたため,右半結腸全部及び小腸の広範囲を切除された。(乙A3〔18,31頁〕,5の1〔9~10,89~93頁〕)

 (イ) 本件手術以降の経過

 a 被告丙は,9月6日,原告Aから,Cが自宅では腹痛を訴えていた旨を聴き取ったのに対し,8月27日に突然強い腹部症状が出たのであり,それ以前には腹痛の訴えがなかった旨を説明した。(甲A4,乙A1〔9頁〕)

 b Cは,9月5日に抜管され,同月9日にICUから病棟に戻るなど改善傾向を示したが,呼吸状態が悪化するなどしたことから,同月27日に再度ICUに戻り,挿管されることになり,その後,状態が良くなることはなかった。(甲A4,乙5の1〔34頁〕,5の2〔160,171,217頁〕)

 c 太郎,原告ら3名及び丁谷は,10月14日午後10時ころから同月15日午前0時45分ころまでの間,被告丙及び西沢医師に対して診療経過につき質問するなどしたが,納得できない点があったため,再度,話し合いを行うことになった。

 そして,同月16日午後7時ころから,太郎,原告ら3名及び丁谷と被告丙との間で再度の話し合いが行われた。原告A及び丁谷らが,被告丙に対し,自らの診療において過誤があったことを認めるように激しく迫り,「患者と家族のためのしおり15 ベーチェット病」(甲B2)の一部を声に出して読み上げさせるなどしたため,被告丙は,同日午後10時ころ,謝罪文を作成したが,丁谷がこれを納得できないから書き直せなどと要求した。このため,被告丙は,仕方なく,丁谷が指示したとおり,自らの非を認める内容の文書(甲B5)を作成した。途中から話し合いに参加した西沢医師らが同文書を交付することに反対したにもかかわらず,丁谷は,同文書を受け取って,同日午後11時ころ,この話し合いを終了することとした。(甲A4,5,B5,8,乙A1〔13~14頁〕,5の1〔65,69~70頁〕,5の2〔267,275頁〕,6,26,証人丁谷,被告丙本人)

 (ウ) Cは,10月18日午前9時23分,最終的には,多臓器不全から呼吸機能不全に至り,死亡した。

  (2) 医学的知見(以下,当裁判所が採用した3人の医師による鑑定の結果につき,W1医師によるものを「W1鑑定」,W2医師によるものを「W2鑑定」,W3医師によるものを「W3鑑定」という。)

 ア ベーチェット病とは,①口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍,②皮膚症状(結節性紅斑,皮下の血栓性静脈炎,発疹),③眼症状(虹彩毛様体炎,網膜ぶどう膜炎等),④外陰部潰瘍を4大主症状とする原因不明の炎症に基づく症候群である。ベーチェット病では,臨床症状及び検査所見は疾患特異性に乏しいため,診断は臨床症状の組み合わせでされる。

 ベーチェット病の特殊病型として,①腸管の潰瘍性病変を来す腸管型ベーチェット病,②大小の動静脈の病変を来す血管型ベーチェット病,③脳幹,小脳,大脳白質の病変を主体とする神経型ベーチェット病が定義されている。(甲B2〔4~9頁〕,3〔9~15頁〕,4〔1989頁〕,6〔1926頁〕,13〔125頁〕,15〔415頁〕,16〔1513頁〕,16〔1513~1516頁〕,17〔76頁〕,W1鑑定,W2鑑定,W3鑑定)

 イ 腸管型ベーチェット病は,一般に,ベーチェット病発症後数年を経て出現する遅発性病変であり,全消化管に潰瘍性腫瘍が出現し得るが,典型例では回盲部(右下腹部)に深い腫瘍(punched-out type)を形成する。臨床症状としては,腹痛が圧倒的に多く,下痢,下血又は腹部腫瘤のほか,腹部膨満感を示すこともあり,また,穿孔を起こす場合や発熱を伴うこともあるとされる。(甲B3〔13~14,23~26頁〕,4〔1990~1991頁〕,15〔418頁〕,乙B3〔209頁〕,4〔217頁〕,W1鑑定,W2鑑定,W3鑑定)

 ウ ベーチェット病に対して投与される薬剤は,①大量ステロイドの全身投与(重篤な機能障害を来すおそれのある症状に対して),②コルヒチン(白血球機能抑制剤),③免疫抑制剤,④非ステロイド性抗炎症剤等である。また,腸管型ベーチェット病に対し,確実に奏功する薬剤は見出されていないところ,回盲部の潰瘍が穿孔を起こした場合及び内科的治療により回復が見込まれない場合には外科的切除を要するとされている。(甲B3〔27~28,84~102頁〕,4〔1992~1993頁〕,9〔131~132頁〕,13〔126~127頁〕,17〔77頁〕)

 2 本件について,当裁判所が採用した3人の医師による鑑定の結果の概要は次のとおりである。

  (1) W1鑑定

 ア 7月30日の診察時における検査等の義務違反について

 (結論)

 尿検査及び血液検査等は行うべきであった。

 (理由)

 紹介状(乙A1〔4頁〕)に「胃症状(+)」とあり,Cが消化器症状を訴えていたとあるが,それがベーチェット病の消化器症状を疑わせるほどの症状であったかは不明である。典型例なベーチェット病の消化器症状は回盲部を中心とした潰瘍形成等であり,胃痛とは異なる。ベーチェット病は,決してまれな疾患ではないが,特異性の高い血清学的所見に乏しく,症状も広範囲にわたり,かつ,診断困難例も多い。7月30日の診察時において,ベーチェット病の可能性ありとして紹介されたのであれば,疾患が全身性疾患であることにかんがみて,皮膚科であっても全身的な症状の発現を考慮すべきであり,一般論として,炎症所見を含めた血液検査,生化学的検査及び尿検査程度は行うべきであった。特に高熱(40度)がある場合には,皮膚以外の病変の存在を考え検索すべきであった。

 イ 8月7日の診察時に,Cに腸管型ベーチェット病が発症していたと疑うべき兆候の有無等について

 (結論)

 腸管型ベーチェット病を疑う所見は,カルテの記載からは不明である。

 (理由)

 8月7日のカルテの記載からは,腸管型ベーチェット病を思わせる記載は読み取れない。しかし,原告Dの陳述書(甲A4)には,同日の時点で,高熱,だるさ,お腹の張りや痛みの記載があり,皮膚症状以外の消化器病変の存在が示唆されている。

 この段階で,腸管型ベーチェット病を積極的に疑うことは困難であったかもしれないが,ベーチェット病が全身性の疾患であり,発熱もあったことから,少なくとも凝固能亢進の有無を含めた血液検査及び内科的検査のための内科への転科措置は行うべきであり,原告らが主張する消化器症状(腹部膨満感)の訴えがあったのであれば,便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン撮影及びCT検査のいずれかに加えて消化管病変に対する内科的治療も行われるベきであった。

 ウ 8月14日の診察時に,Cに腸管型ベーチェット病が発症していたと疑うべき兆候の有無等について

 (結論)

 腸管型ベーチェット病を疑わせる症状は存在した。

 (理由)

 カルテには「お腹はった」との記載があり(乙A1〔7頁〕),また,原告Dの陳述書(甲A4)にも,Cがお腹が張って痛くてつらいとの記載があり,高熱があったことを考えると,ベーチェット病による消化器症状の存在も否定できない。リンデロンが処方され,それによって臨床症状が改善,変化していた可能性もあるが,被告らが主張するように腹部症状をリンデロンによる腹部膨満感とするのは納得できない。エンシュアリキッドを処方するほどの衰弱がみられたのであれば,少なくとも内科受診を勧め,凝固能亢進の有無を含めた血液検査を行い,また,便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン撮影及びCT検査のいずれかに加えて,腸管病変に対する内科的治療などは行われるべきであり,内科に入院させた上での点滴による栄養補給も考慮されるべきであった。

 エ Cが死亡に至った機序について

 (結論)

 多臓器不全に近い状態であったことが想定されるが,多発性肺梗塞による呼吸不全により死亡した可能性が高い。

 (理由)

 本症例がベーチェット病であるとした場合,回盲部を中心とした消化管潰瘍の形成とその穿孔による腹膜炎と敗血症及び血栓形成による血管炎,消化管壊死などを起こした可能性がある。

 Cは,臨床像などより皮膚症状を伴った腸管型ベーチェット病である可能性が最も高いが,急速な消化管を含めた全身の血栓症状及び血管炎を起こす疾患はベーチェット病以外にも抗リン脂質抗体症候群などがある。Cの検査所見では,抗核抗体陽性であり,また,一貫してCRPは高値であるにもかかわらず白血球数は低下しているが,これらの所見等からベーチェット病以外の抗リン脂質抗体症候群等の他の膠原病の存在も完全には否定できないと思われる。

 オ 10月18日における死亡の結果回避可能性について

 急速に進行する消化管を始めとした血栓症,血管炎を思わせる症状を呈する疾患は,ベーチェット病に限らず予後は不良であり,特に若い年齢層の患者ではその進行が早く,必ずしも上記各処置が行われていれば救命し得たともいい切れない。診断がより早期につき,パルス療法等のステロイド剤大量投与や免疫抑制剤投与等の処置が行われたとしても病勢の進行が強ければ死亡した可能性もある。

 救命し得たかどうかは別にしても,全体として,全身疾患としてのベーチェット病の病態をかんがみて,仮にCの消化器関連の訴えが少なかったとしても,もう少し早くより腸管型ベーチェット病や他の膠原病の存在等について,皮膚科のみならず,全身的,内科的な検査及び対応が必要とされたように思われる。

  (2) W2鑑定

 ア 7月30日の診察時における検査等の義務違反について

 (結論)

 尿検査,血液検査,生化学検査及び便潜血検査のいずれをも必須ではないが行うことが望ましかった。

 (理由)

 7月30日の診察時において,少なくとも口内炎及び外陰部潰瘍が持続していること,新たにコルヒチン,ロキソニン,ムコスタ等の投薬を開始した後であること(可能性は低いとしても副作用の出現に留意すべきであろう。),診察所見以外の追加情報が得られる等により,腹痛や腹部膨満感の有無にかかわらず,尿検査,血液検査,生化学検査及び便潜血検査のいずれをも行うことが望ましかったといえる。

 イ 8月7日の診察時に,Cに腸管型ベーチェット病が発症していたと疑うべき兆候の有無等について

 (ア) 皮膚科外来診療録の記載が正確であるという前提

 (結論)

 腸管型ベーチェット病を積極的に疑う兆候はない。

 (理由)

 皮膚科外来診療録上では,①紹介状(乙A1〔4頁〕)における「胃症状(+)」,②7月23日の診察時の「3w前~胃部症状(+)……だった。↓なくなった」のみであり(乙A1〔2頁〕),それ以降8月7日まで記載はない。この「胃(部)症状」の詳細は不明であるが,一般的な解釈である「胃の痛み」,「胃もたれ,胃が重い,お腹が張る」,「食欲不振」,「消化不良」,「吐き気」等の症状であれば,非常にありふれた愁訴で,健常人でもしばしば認められるものである。すなわち,「一過性に胃(部)症状があったこと」は腸管型ベーチェット病を強く疑うには有用な所見ではなく,他に消化器症状の出現がなければCに腸管型ベーチェット病が発症していると疑うことはできない。また,胃(部)症状が出現したらすべての受診者で腸管型ベーチェット病を疑い検索しなければならないというのは現実的でない。

 (イ) 皮膚科外来診療録の記載が正確でないという前提

 原告らの主張等によると,Cは,7月下旬ころから反復又は継続する腹痛,腹部膨満感,食道の違和感,食事が食べられない等の訴えをしたとのことである。

 これらの症状からは,腸管型ベーチェット病の兆候が強く疑われ,診断や重症度把握のための精査が必要である。したがって,凝固能亢進の有無を含めた血液検査,内科的検査のための内科への転科措置を行い,便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン撮影及びCT検査のいずれかを行い,また,上部・下部消化管内視鏡検査を速やかに実施すべきであろう。血栓形成予防の治療及び消化管病変に対する内科的治療については,上記検査の結果をみて数日内に判断すべき対応であるが,実際には,特定の結果が出たら治療に入るという絶対の条件はない。転科するか,入院するか,いかなる治療方針を採るか等については,検査結果と本人の全身状態,重症感の有無,症状の進行速度,本人の社会的状況に応じて総合的に決定される。

 ウ 8月14日の診察時に,Cに腸管型ベーチェット病が発症していたと疑うべき兆候の有無等について

 (ア) 皮膚科外来診療録の記載が正確であるという前提

 腸管型ベーチェット病による症状としては,皮膚科外来診療録には「昨夜お腹はった」と腹部膨満感を訴えたことが記載されている(乙A1〔7頁〕)。

 したがって,8月14日の診察時では,レトロスペクティブにみれば,腹部膨満という腸管型ベーチェット病を疑わせる兆候がみられていた。しかし,何週間ぶりにお腹が張ったというだけでは,腸管型ベーチェット病の発症を即示すものではなく,原告らが主張する各検査及び治療は必須ではないであろう。

 しかし,経口摂取が困難で,全身の衰弱がみられた様子がうかがえるため,特にベーチェット病の専門医としては,病状を客観的に評価するため,凝固能亢進の有無を含めた血液検査に加えて,便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン撮影及びCT検査のいずれかを行うことが望ましかった。内科に入院させた上での点滴による栄養補給については,全身状態やC本人及び家族の希望によってケースバイケースで判断するところであるが,病状やそれに対する評価については診療録の記載に情報がなく,内科入院や点滴を行わなければならなかったかは不明である。上部・下部消化管内視鏡検査については,この状態では,たとえベーチェット病として治療中でも,検査リスクやCの負担する検査費用及び労力を考慮すると必ずしも必須ではなかった。

 (イ) 皮膚科外来診療録の記載が正確でないという前提

 原告らの主張等によると,Cは,8月7日の診察時から同月14日の診察時までの間,腹痛及び腹部膨満感の増強を訴え,食事摂取困難及びるいそうの進行がみられていたようである。

 これらの症状からは,腸管型ベーチェット病の兆候が強く疑われ,診断や重症度把握のための精査が必要である。また,栄養管理や全身状態管理のため入院を勧めるべきである。この場合に実施すべき検査及び措置は,上記イ(イ)とほぼ同様である。

 この時点で腸管型ベーチェット病が発症していたと仮定すると,腸管のびらん,潰瘍及び炎症等の病態が持続し,8月27日時点では穿孔に至らないまでも,腹部症状及び全身状態の悪化につながり,同月30日の消化管穿孔に至ったと考えられる。

 エ Cが死亡に至った機序について

 直接死亡に関与したものは呼吸不全であると推察される。しかし,本件手術後に感染症(敗血症)が原因と考えられる肺炎,心不全等々が出現し,ICU入室時は多臓器不全の状態に陥っていた。また,手術創の縫合不全,出血,栄養状態の悪化も経過に悪影響を及ぼしたであろう。ベーチェット病も,腸管の縫合不全,消化管出血,肺動脈塞栓症及び栄養状態悪化に関与した可能性が高い。したがって,現実には単独の死因を特定するのは難しい。

 感染症(敗血症)の原因は,消化管穿孔及び腹膜炎である。また,腸管型ベーチェット病が発症していると仮定した場合,消化管穿孔以前に口腔外陰部粘膜の潰瘍や消化管粘膜の潰瘍では正常の上皮が欠損している状態であるから,これらが周囲にいる細菌の侵入門戸となった可能性も否定できない。

 オ 10月18日における死亡の結果回避可能性について

 (ア) 皮膚科外来診療録の記載が正確であるという前提

 Cのベーチェット病は,コルヒチン及びステロイド治療に抵抗性の難治症例と考えられるが,8月14日までの経過では事前にこのような転機をたどることは予測できなかったと思われる。また,発症から消化管穿孔まで短期間で進展する急速進行型の症例であり,予後不良な重症型であったと考えられる。したがって,同日以前に各種検査,処置及び治療を行ったからといって死亡の結果は回避できなかったと考えられる。

 (イ) 皮膚科外来診療録の記載が正確でないという前提

 原告らの主張等から判断すると,8月7日の診察時から同月14日の診察時までの間,腹痛及び腹部膨満感の増強を訴え,食事摂取困難,るいそうの進行がみられていたようである。この時点で,便秘ではなく,腸管型ベーチェット病(あるいはそれに準じた病態)と診断できれば,より強力な免疫抑制療法(大量ステロイド投与,免疫抑制剤投与)を行い,絶食・中心静脈栄養を行うことで腸管の炎症を抑え,消化器への負担軽減や栄養状態改善を図ることができて,消化管穿孔ひいては死亡の結果は回避できたかもしれなかった。しかしながら,腸管型ベーチェット病はベーチェット病の中の特殊型であり,的確に診断及び治療し得ても,重症化し治療に反応せず死の転帰を取る症例も少なからず存在する。したがって,上記の対応を行ったからといって,確実に死亡の結果を回避できたわけではない。

 カ 最後に,後からレトロスペクティブに振り返って論じるのは簡単であるが,特異的な検査所見のない疾患において,時々刻々症状が変化する過程で完璧に診断することは非常に困難である。結果が悪かったからといって,後から判明した情報をもって経過中の判断の間違いを批判するのは酷であることは申し添えたい。

  (3) W3鑑定

 ア 7月30日の診断時における検査等の義務違反について

 一般的にベーチェット病全体の病勢を判断する材料として,血液検査,特に炎症所見を反映する白血球数やCRP値は重要であるが,あくまでも臨床症状の推移を判断しながら血液検査を実施するか否かが決定される。したがって,外来診察時に明らかな臨床症状の悪化がCから述べられない,又は,診察上悪化所見の存在が認められるのでなければ,必ずしも血液検査や尿検査を実施する妥当性は認められない。特に,カルテ上に明らかな腹部症状の訴えはなく,腸管型ベーチェット病の存在を念頭に置くことは困難であり,便潜血検査の実施を積極的に行う根拠はない。

 イ 8月7日の診察時に,Cに腸管型ベーチェット病が発症していたと疑うべき兆候の有無等について

 C自身から腹痛や便通異常そして血便といった症状が示されない限り,腸管型ベーチェット病を疑うのは困難である。したがって,8月7日のカルテ(乙A1〔3頁〕)には,Cから腹部症状や便通異常の訴えがないことから,同日時点で腸管型ベーチェット病の存在を疑う根拠は乏しかった。

 ウ 8月14日の診察時に,Cに腸管型ベーチェット病が発症していたと疑うべき兆候の有無等について

 8月14日のカルテ(乙A1〔7頁〕)には,Cの腹部膨満感の訴えが記載されていることから,仮に以前からそのような訴えがなく急に出現した症状だとすれば,腸管型ベーチェット病を疑う根拠にはなると考えられる。ただし,血便や腹痛,下痢といった明らかな腹部異常所見と比べ,便秘傾向や腹部膨満感という症状は腸管型ベーチェット病を特異的に示唆するほどの症状ではない。腹部膨満感と便秘症状が以前から存在していたか急速に出現したかを判断し,判断に苦慮するならば,内科医による診察の依頼が必要となった。

 エ Cが死亡に至った機序について

 入院後の経過は複雑で,死亡に至った原因を特定するのは,解剖所見がない限り困難と考えるが,多発した腸管穿孔に伴う汎腹膜炎という重篤な感染症に伴う病状と急激に悪化重症化したベーチェット病の両者が混在した病態にあったと考えられる。

 重篤な感染症に伴う高度なDICと重症ベーチェット病により生じる免疫不全状態と高度な凝固能亢進状態とが同時に存在し,最終的には多臓器不全,特に急激な呼吸機能不全を来し死に至ったと考えられる。推測としては,極めて急激に重症化しつつあったベーチェット病が腸管穿孔という重篤な全身不良状態に伴い更に重症化し多臓器障害を形成したのではないかとも考えられる。

 オ 10月18日における死亡の結果回避可能性について

 (結論)

 仮に検査を実施し,腸管型ベーチェット病の存在を診断した場合でも,必ず死亡を回避可能かどうかはいえない。死亡を回避する可能性は高まるが,時間経過の違いを伴い死亡の結果を回避不可能な場合も十分に想定される。

 (理由)

 Cのベーチェット病は,極めて急速に全身状態が悪化し,治療困難な難治性重症例であったと考えられ,通常のベーチェット病の治療法で改善したか否かを推測するのが困難な症例であったと考えられる。そして,重篤な腸管型ベーチェット病では大量ステロイド投与によっても改善せず穿孔を来し,緊急手術が回避されないことは時に経験されることであり,腸管型ベーチェット病の存在が確認され,治療が開始されていても必ず良好な経過をたどるとはいい難い場合がある。

 3 争点(1)(義務違反の有無)について

  (1) 原告らは,Cが7月23日からの通院期間中に腸管型ベーチェット病に罹患し,被告丙に対して繰り返し腹痛を訴えていた点などに照らすと,被告丙が,①7月30日の診察時において,尿検査,血液検査,生化学検査及び便潜血検査等の全身検査を行う義務を有していたこと,②8月7日の診察時において,血液検査(凝固能亢進の有無を含めた検査),内科的検査のための内科ヘの転科措置を行い,便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン検査やCT検査等の画像検査,上部・下部消化管内視鏡検査等を行い,検査結果によって血栓形成予防の治療,また,消化管病変の可能性があるのであれば,これに対する内科的治療を開始する義務を有していたこと,③同月14日の診察時において,Cを内科に入院させて点滴による栄養補給を行って,Cの体力を維持及び回復しつつ,血液検査(凝固能亢進の有無を含めた検査)のみならず,便潜血検査,腹部超音波検査(腸管壁の肥厚や拡張などを捉えるため),腹部レントゲン検査,CT検査等の画像検査と上部・下部消化管内視鏡検査等を行い,検査結果によって血栓形成予防の治療や腸管病変に対する内科的治療を開始する義務を負っていたことを主張する。

 しかし,以下のとおり,被告丙が原告らの主張する各義務を負っていたということはできない。

  (2) まず,Cが7月23日からの通院期間中に被告丙に対して腹痛を訴えていたと認めるに足りる証拠はなく,Cが被告丙に対して初めて腹痛を訴えたのは8月27日の通院時であったから,原告らが主張する各義務はいずれもその前提を欠くものである。

 ア まず,8月7日の診察時以前には,カルテに腹部に関する記載は皆無であり(乙A1〔2~3頁〕),また,同月14日の診察時には「昨夜お腹はった」,同月21日の診察時には「constipation(判決注:便秘)腹がはっていてりきんだがプルゼニドでabd(判決注:痛み)+」というだけで(乙A1〔7頁〕),腹部膨満感に関する記載にとどまり,腹痛に関する記載はない。

 また,Cは,7月24日,同月30日,8月7日,同月14日の各診察後に,原告Dとともに外食したり,買い物をしたりしたこと(上記1(1)イ(イ)~(オ)参照)に照らすと,この期間中にCに腹痛があったとみることは困難である。

 さらに,Cが同月16日に原告Dに対してお腹が張っている旨を訴えていたこと(原告D本人〔14頁〕),Cが同月14日から同月21日までの間に通院せず,かつ,同日の診察時に腹痛の訴えをしなかったことに照らすと,仮にCが自宅において腹痛があったと述べていたとしても,かかる症状は陰部潰瘍又は便秘による腹部膨満感を示すものと推測される。

 イ 原告らは,被告丙がCの腹痛の訴えを診療録に記載することをことさらに避けた疑いを指摘する。

 しかし,陰部潰瘍や結節性紅斑等のベーチェット病の症状とみられる詳細な記載がされていることからすると,Cが被告丙に対し十分に症状を訴えることができたとみることができるし,腹部膨満感の訴えが記載されていたにもかかわらず,被告丙においてCの症状に関する訴えのうち腹痛の記載だけを避ける動機が見あたらない。また,被告丙は,9月6日,原告Aに対して,Cに突然強い腹部症状が出たのが8月27日のことであり,それ以前には腹痛の訴えがなかった旨を説明したこと(上記1(1)ウ(イ)a参照)からすると,Cの生存中からの被告丙の説明は一貫し,Cが被告丙に対し腹痛を訴えていたにもかかわらず,被告丙が腹痛を診療録に記載することをことさらに避けたとみることはできない。

 ウ 加えて,8月27日の腹部レントゲン検査及び同月28日の腹部CT検査の結果をみても,消化管穿孔の所見はなかったのであるから(上記1(1)ウ(ア)参照),Cの潰瘍性穿孔は同日から同月30日に実施された本件手術までのわずか数日間で急速かつ広範囲に形成されたものであると認められる。このようにCの潰瘍性穿孔が急速に進行したものであることは,Cが通院期間中に腸管型ベーチェット病を発症していなかったことを推認させる事情となるというべきである。

  (3) そして,Cが8月27日の通院時に至るまで被告丙に対して腹痛を訴えなかったことを前提にすると,7月30日,8月7日及び同月14日の各通院時において,原告らの主張する義務違反があったと認めることはできない。

 ア なお,7月30日の診察時の義務違反について,W2鑑定は,Cに対して,尿検査,血液検査,生化学検査及び便潜血検査のいずれをも必須ではないが行うことが望ましかったとする。しかし,同日の診療時には,同月23日に投薬した効果が現れ,Cの症状に改善がみられたことからすると(上記1(1)イ(ウ)参照),Cに対して血液検査等を行わなかったことが,実践における医療水準を下回るものであったとまでいうことはできず,被告丙の義務違反を認めることはできない。

 また,8月14日の診察時の義務違反について,W2鑑定は,レトロスペクティブにみれば,腹部膨満という腸管型ベーチェット病を疑う兆候がみられ,その時点で経口摂取が困難で,全身の衰弱がみられたことからすると,病状を客観的に評価するため,凝固能亢進の有無を含めた血液検査及び便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン検査やCT検査等の画像検査のいずれかを行うことが望ましかったとし,また,W3鑑定も,同日以前から腹部膨満感の訴えがなく急に出現した症状だとすれば,腸管型ベーチェット病を疑う根拠になるとする。しかし,Cが経口摂取が困難であったのは衰弱のためというよりむしろ口内炎の痛みのためであった可能性を排除できないし(上記1(1)イ(オ)参照),腹部膨満感は右下腹痛と比べると腸管型ベーチェット病に特異な症状であるとはいい難く(上記1(2)イ参照),また,リンデロンの副作用としても起こり得るものであることからすると(乙B2〔1990頁〕),被告丙が,同日の診察時に,Cに腸管型ベーチェット病が発症したことを疑わなかったことをもって,被告丙において実践における医療水準を下回った義務違反を認めることはできない。

 イ 原告らは,①7月30日の診察時において,一般論として,尿検査,血液検査及び生化学検査程度は行うべきで,特にCが高熱であったのであるからなおさら行うべきであった,②8月7日の診察時において,ベーチェット病が全身性の疾患であり,Cに発熱もあったことから,血液検査及び内科への転科措置を行うべきであり,消化器病変の訴えがあれば,更に便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン検査やCT検査等の画像検査,消化管病変に対する内科的治療を行うベきであった,③同月14日の診察時において,腸管型ベーチェット病を疑わせる症状が存在したのであるから,少なくとも内科受診を勧め,血液検査,便潜血検査,腹部超音波検査,腹部レントゲン検査やCT検査等の画像検査,内科的治療を行うべきであったという内容のW1鑑定を採用すべきであると主張する。

 しかし,W1鑑定は,①Cが通院期間中を通じて約40度の高熱であったこと及び②Cが8月14日の診察時において腹痛の症状を有していたとしたことの2点を必須の前提とするならば,これを採用することができない。すなわち,腹痛の症状や高熱を発していることが腸管型ベーチェット病を疑う要素となり得るとしても(上記1(2)ア,イ参照),被告丙が把握していたCの症状は,7月23日の診察時においては,3週間前から胃部症状があったものの,同症状は消失していたというものであり,また,8月14日の診察時においては,「昨夜お腹はった」というものにすぎず(上記1(1)イ(ア),(オ)参照),Cが7月23日から8月14日までの間に腹痛を訴えていたとは認め難い。また,Cの体温は,7月23日より前に40度の高熱が1週間続いたものの,同日の診察時には平熱に回復していたこと,その後のCについては8月27日に入院するまでの間特に高熱を発したことはなかったことがそれぞれ認められ(上記1(1)ア,イ(ア)参照),これを覆すに足りる的確な証拠はない(なお,原告Dは,Cが通院期間中を通じて高熱であったと供述するが,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はなく,被告丙がこれを否定している点に照らして,これを採用することはできない。)。

  (4) さらに,8月27日の腹部レントゲン検査及び同月28日の腹部CT検査の結果をみても,消化管穿孔の所見はなかったことからすると(上記1(1)ウ(ア)参照),被告丙が原告らの主張する各義務に沿った検査等を行ったとしても,Cが死亡する結果を回避できたと認めることはできないから(W1鑑定,W2鑑定,W3鑑定),この意味においても原告らの主張は理由がない。

 4 以上のとおり,原告らは,被告丙の義務違反の前提として,主として,Cが,松戸市立病院からベーチェット病の疑いがあるとして被告病院に紹介された患者であり,発熱症状や腹痛その他の胃部異常について,被告病院に通院した当初又は通院期間中の早期から被告丙に告げていたことを主張するが,原告らが主張するとおりの事実経緯を認めることはできない。また,当裁判所が採用した各鑑定の結果や医学的知見等を総合すると,Cが罹患した腸管型ベーチェット病(なお,この傷病名についても,Cに対する解剖所見に基づくものではない。)は,特徴的な臨床症状の組み合わせにより診断されるもので,ベーチェット病自体について完結的に適合する特異な検査方法が解明されていないのが実情であることに加えて,Cの発症から死亡に至るまでの経緯に照らすと,その症状の進行は極めて急速なものであったと認められる。しかも,Cのベーチェット病に対する事後的な診断はともかくとして,過去の時々刻々における適切な対処及び対応については,事後的検討においてすら困難を極めるものであったといわざるを得ないものである。

 したがって,結局のところ,本件全証拠によっても原告らの主張する被告丙の義務違反を認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本訴各請求はいずれも理由がない。

第4 結論

 よって,原告らの本訴各請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

 

 

 

 



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