【弁護士法人ウィズ】医療ミス医療事故の無料電話相談。弁護士,医師ネットワーク

十二指腸潰瘍の治療のため胃を切除する手術時に腹腔内にタオルを残置したことによりタオル摘出までの約25年間下痢等の症状に悩まされ続けたなどと主張の事例

東京地方裁判所 平成24年5月9日判決言渡 平成22年(ワ)第18806号 損害賠償請求事件 判 決 主 文 1 被告は,原告に対し,1102万5186円及びこれに対する平成22年 6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告の 負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 被告は,原告に対し,1億2379万5923円及びこれに対する昭和58年9月2 9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,被告の開設するA病院(以下「被告病院」という。)において十二指腸潰瘍 の治療のため胃を切除する手術(胃切除 BillrothI法。以下「本件手術」という。)を 受けた原告が,被告病院の医師らが本件手術の際に腹腔内にタオルを残置したこと(以 下,これを「本件事故」という。)により上記タオル摘出までの約25年間下痢等の症 状に悩まされ続けたなどと主張して,被告に対し,不法行為又は診療契約上の債務不履 行に基づき診療費,逸失利益,慰謝料,弁護士費用等合計1億2379万5923円及 びこれに対する本件手術の日である昭和58年9月29日(予備的に訴状送達の日であ る平成22年6月2日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の 支払を求める事案(一部請求)である。 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠〔[]内は当該証拠の関係頁である。〕及び 弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)  原告は,昭和33年12月6日生まれ(本件手術当時24歳)の男性である。被 告B市は,被告病院を開設し,これを運営している。 ア 原告は,被告病院を受診して十二指腸潰瘍との診断を受け,昭和58年9月2 9日,被告病院において,本件手術を受けた(甲A1)。 イ 原告は,平成20年3月5日,血便の症状を訴えて,C医院を受診した。また, 原告は,血尿の症状を訴えて,同年4月7日,Dクリニックを,同月12日,同クリニ ックの紹介でE病院(泌尿器科,外科)をそれぞれ受診して,各病院等の医師の診察を 受けた(甲A6から8まで)。 E病院の医師は,腹部CT検査の結果に基づき,脾臓外側に長径約8㎝大の腫瘤が存 在すると判断し,原告に対し,その旨を告げたが,その後,原告は,同病院への通院を 中止した(甲A8[4],甲A9[2])。 ウ 原告は,平成20年5月8日,F病院を受診し,左横隔膜下に脾臓に接する長径 約8㎝大の腫瘤が存在するとの診断を受け,同月9日,同病院に入院し,同月26日, 上記腫瘤及び脾臓を摘出する手術を受けた。 F病院の医師は,上記手術において,脾臓の背側にタオル(約36㎝×25㎝。以下 「本件タオル」という。)が存在すること,そして,これが脾臓と高度に癒着し,横隔 膜(食道裂孔部)及び胃とも癒着していることを確認し,本件タオルを摘出するととも に,脾臓を摘出した(以下,これを「本件摘出手術」という。)。 原告は,同年6月21日,F病院を退院した。(甲A3,4,甲A5[13,19], 甲A11) エ 原告は,本件手術当時,G株式会社(H製鉄所)で,軽量H形鋼の製造ラインの オペレーターとして稼働していたが,昭和62年12月,退社した。 また,原告は,① 平成2年12月,I株式会社に入社し長距離トラックの運転手と して稼働していたが,平成3年12月,退社し,② 平成4年1月,株式会社Jに入社 しトラックの運転手として稼働していたが,同年7月,退社し,③ 平成6年2月,有 限会社Kに入社しクレーンのオペレーターとして稼働していたが,同年10月,退社し, ④ 平成19年9月,株式会社Lに入社しトレーラーの運転手として稼働していたが, 同年10月,退社し,⑤ 同年11月,人材派遣会社である株式会社Mに入社しN株式 会社(O工場)に派遣されて稼働していたが,平成20年10月10日(本件摘出手術 後),解雇された。 オ 原告は,平成22年5月21日,本件訴訟を提起した。 2 当事者の主張  責任原因について (原告の主張) 被告病院の医師らは,本件手術の際,原告の腹腔内に手術器具等を残置することのな いよう,術前,術後に上記器具等の種類及び数量を確認する義務を負うにもかかわらず, これを怠り,原告の腹腔内に本件タオルを残置した。 被告は,不法行為に基づく損害賠償義務を負うとともに,診療契約上の債務不履行に 基づく損害賠償義務を負う。 (被告の主張) 争う。  損害について (原告の主張) ア 原告は,本件事故により,次のとおりの損害を被った。  診療費等 3万8890円 ⅰ Dクリニック 1200円 ⅱ E病院(薬剤費を含む。) 1万0940円 ⅲ F病院 2万3600円 ⅳ 呼吸訓練器購入費用 3150円  逸失利益 9250万2859円 ⅰ 本件摘出手術前 7554万3596円 原告は,本件事故により,日常的に下痢の症状が出現するようになって就労が困難となり,更に,昭和59年頃からは血便及び血尿の症状が,平成元年頃からは嘔吐の症状 が出現するようになった。 上記の症状は,後遺障害別等級表の第7級5号(胸腹部臓器の機能に障害を残し,軽 易な労役以外の労役に服することができないもの)に準ずるもので,その労働能力喪失 率は56%,労働能力喪失期間は25年(昭和58年から平成20年まで)であるし, 原告の本件手術当時の年収は370万円であり,各年3%の割合で増加する予定であっ たから,上記期間における逸失利益は7554万3596円となる。 ⅱ 本件摘出手術後 1695万9263円 原告は,本件摘出手術により脾臓を摘出されたほか(後遺障害別等級表の第8級), 本件事故を知って衝撃を受け,全身に倦怠感が出現した。 原告の労働能力喪失率は20%,労働能力喪失期間は17年であるから,その逸失利 益は1695万9263円(752万1338円〔原告の年収が各年3%の割合で増加 した場合の金額〕×11.2741〔17年に対応するライプニッツ係数〕×0.20 〔労働能力喪失率〕)となる。  慰謝料 3000万円 ⅰ 本件摘出手術前 1500万円 原告は,被告病院の医師らの初歩的な過誤により,腹腔内に本件タオルを残置され, 25年もの間,下痢等の症状に悩まされ続けたのであって,その慰謝料は1500万円 を下らない。 ⅱ 本件摘出手術及び同手術後 1500万円 原告は,本件事故により,腹腔内に長径約8㎝大の腫瘤があると診断され,死も覚悟 せざるを得ない状況にまで追い詰められた上,本来必要のない開腹手術(本件摘出手術) を受けて脾臓を摘出され,術後,全身に倦怠感が出現し,日常生活,就労等にも制約が 生じているのであって,その慰謝料は1500万円を下らない。  弁護士費用 1225万4174円 イ 被告は,① 原告が下痢及び嘔吐の症状を訴えて医療機関を受診していないこと,その体重が減少していないこと,そして,残置された本件タオルの位置や癒着状況に照 らすと,原告に下痢,嘔吐,血便及び血尿の症状が出現したとはいえない,② 仮に出 現していたとしても,これは本件事故によるものではない旨の主張をする。 しかしながら,原告は,被告病院の医師らから術後に下痢の症状が出現する旨の説明 を受けていたことから,上記症状は本件手術によるものと考えて医療機関を受診しなか ったのであるし,体重の増減には種々の要因が関係するのであって,その推移から下痢 等の症状の出現を否定することはできない。 また,① 本件タオルは,脾臓の背側に位置し,脾臓のみならず,横隔膜(食道穿孔 部),大網,腹膜,腎臓上極等とも癒着していたこと,② 本件タオルにより,脾臓と 接する消化管が腹腔中心側(脊椎側)に圧排されていたこと,③ 本件タオルにより, 間接的に空腸も圧迫されていたこと,④ 本件摘出手術後,原告に下痢,嘔吐,血便及 び血尿の症状は出現していないことからすると,これらは,本件タオルによる刺激や異 物反応,本件タオルと臓器等との高度の癒着による器質化又は瘢痕形成によるものとい うべきである。 (被告の主張) ア ① 原告の本件手術当時の体重は60kgであり,本件摘出手術前のそれは 65kgであること,② F病院において,原告に下痢及び嘔吐の症状は確認されて いないこと,③ 原告が,C医院,Dクリニック,E病院及びF病院(以下,併せて 「C医院等」という。)において,下痢及び嘔吐の症状を訴えていないこと,④ 原 告が,C医院等以外の医療機関を受診したことがないこと,⑤ 原告が大量の飲酒を し,喫煙をしていたことなどからすると,本件手術後,原告に下痢等の症状が出現し ていたとはいえない。 また,① 本件タオルによる消化管の圧迫はなく,本件タオルと大網,大腸,空腸, 結腸等との癒着もないこと,② 本件タオルは腎臓(左腎臓)に接していないこと,③ 胃との癒着部分に瘢痕化は生じていないこと,④ F病院での大腸内視鏡検査において, 大腸粘膜の異常は確認されていないこと,⑤ 本件タオルは,本来,術中における臓器の緊張を緩和しその損傷を回避するためのもので,消化管を圧迫するものではないこと からすると,血便及び血尿の症状が出現していたとはいえない。  仮に上記の症状が出現していたとしても,これは胃切除(本件手術)後の腸管 運動機能の異常亢進,大量の飲酒,喫煙等によるもので,本件事故との間に相当因果 関係はない。 イ 脾臓を摘出したからといって,労働能力に何らかの影響が生ずるわけではない。 また,本件摘出手術後,原告の全身に倦怠感が出現したともいえない。  過失相殺について (被告の主張) 仮に下痢等の症状が出現していたとしても,原告が医療機関を受診していれば,本 件タオルは容易に発見されていたといえる。医療機関を受診しなかった原告の落ち度 は極めて大きく,8割以上の過失相殺をすべきである。 (原告の主張) 争う。  除斥期間,時効について (被告の主張) 不法行為に基づく損害賠償請求権については,除斥期間が経過している。 また,債務不履行に基づく損害賠償請求権は,本件手術時から10年を経過するこ とにより時効消滅した。被告は,この消滅時効を援用する旨の意思表示をする。 (原告の主張) 除斥期間の起算点は,損害が発生した時(原告が腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を 受けた平成20年4月又は本件摘出手術を受けた同年5月26日以降)である。仮にそ うでないとしても,被告病院の医師らは,本件タオルを残置したままこれを摘出しなか ったのであって,本件摘出手術時までその加害行為は継続していたというべきであり, その起算点は,これが摘出された日(本件摘出手術の日)の翌日(同月27日)である。 また,債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,損害が発生した時(平成20年4月又は同年5月26日以降)である。 第3 当裁判所の判断 1 責任原因について 原告の脾臓の背側に本件タオルが存在し,これが脾臓と高度に癒着し,横隔膜(食 道裂孔部)及び胃とも癒着していたことは,前記前提事実のとおりである。そして, 証拠(甲A12,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件摘出手術前, 本件手術以外に開腹手術を受けたことがないことが認められ,本件タオルは,本件手 術の際,原告の腹腔内に残置されたものと推認される。 開腹手術を実施する医師は,当該手術に使用する器具等の種類及び数量を術前,術 後に確認するなどして,これらを患者の腹腔内に残置しないようにする注意義務を負 うところ,被告病院の医師らが,本件手術の際,原告の腹腔内に本件タオルを残置し たことは上記のとおりであって,上記医師らには注意義務違反があったといわざるを 得ない。 2 損害について  診療費等 証拠(甲A3[54],甲C2から4まで)及び弁論の全趣旨によれば,① 原告は, E病院(外科)を受診して,腹部CT検査を受け,その検査料等として3410円の支 払をしたこと,② 原告は,平成20年5月8日以降,F病院に入通院し,診療費等と して合計2万3600円の支払をし,また,術前,術後に使用する呼吸訓練器(インス ピレックス)を代金3150円で購入したことが認められる(以上合計3万0160円)。 なお,証拠(甲C1,2,5)によれば,原告は,Dクリニック及びE病院(泌尿器 科)を受診し,血尿に係る診療費等(薬剤費を含む。)として合計8730円の支払を したことも認められるが,後述のとおり,血尿の症状が本件事故によるものとは認め難 く,上記診療費等を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。  逸失利益 ア 本件摘出手術前 原告は,本件事故により,日常的に下痢の症状が出現するようになって就労が困難に なった,また,昭和59年頃からは血便及び血尿の症状が,平成元年頃からは嘔吐の症 状が出現するようになった旨の主張をし,① 被告病院を退院した後,日常的に下痢の 症状が出現するようになり,平成19年9月頃以降は1日に10回程度下痢の症状が出 現したこともあった,② 昭和59年頃からは1年に1,2回の割合で血便及び血尿の 症状が出現するようになり,平成元年頃からは嘔吐の症状も出現するようになったなど と,これに沿う陳述及び供述をする。 しかしながら,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,① 原告の本件手術当時(被 告病院入院時)の体重は60kg(乙A2[2]),本件摘出手術前のそれは65kg (甲A3[44])であり,本件手術後,下痢等の症状の出現に伴いその体重が減少 した様子は何らうかがわれないこと,② 原告は,C医院等において,下痢及び嘔吐 の症状を訴えていないこと(かえって,原告は,平成20年3月5日,血便の症状を 訴えてC医院を受診した際,同医院の医師に対し,排便は1日に1回である旨の回答 をしている〔甲A6〕。また,原告は,腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた後 も下痢の症状を訴えていない上,嘔吐の症状はない旨の回答もしている〔甲A3[2 0,34,49,53,54,93],甲A5[8]〕。),③ 原告は,本件手術から本 件摘出手術までの間,C医院等以外の医療機関を受診していないこと,④ 本件タオ ルは,脾臓と高度に癒着していたほか,横隔膜(食道裂孔部)及び胃とも癒着してい たものの,脾臓以外の臓器,組織等との癒着は,その剥離に特に困難を伴うものでは なかったこと,また,本件タオルと大網,大腸,空腸,結腸等との癒着はなく,腎臓 にも接していなかったこと(甲A4,乙B2[9,10]),⑤ F病院での大腸内視 鏡検査(平成20年5月19日実施)において,大腸粘膜の異常は確認されていない こと(甲A5[24,25]),⑥ 原告は,胃を切除する手術(本件手術)を受けた にもかかわらず,長年,暴食,暴飲を繰り返していたこと(甲A3[50],甲A7[1], 乙A2[12],原告本人)が認められる。 かかる事情に照らすと,① 平成20年4月22日の腹部CT検査の結果において,胃が内側に圧排されていることが確認されたこと(甲A8[4]),② F病院の看護記録の生活習慣欄に「便3回/日 下痢」との記載があり,平成20年5月12日欄に「家では下痢だけどここでは硬め」との記載もあること(甲A3[50,54]),③ P教授(以下「P教授」という。)作成の平成23年4月22日付け「私的鑑定書」において,残置された本件タオルによる消化管への刺激,周辺組織への炎症の波及,あるいは腎臓への刺激,炎症の波及により,下痢等の症状や,血尿の症状が出現したと考えられるとされていること(甲B3[2])などを考慮しても,原告の供述するように20年以上も前から就労に支障を来すほどの下痢,嘔吐,血便及び血尿の症状が出現していたと認めるのは困難であるし,仮に出現していたとしても,これらの症状を本件事故によるものとまでいうのは困難である(P教授作成の同年9月21日付け「私的意見書」においても,下痢等の症状に原告の食生活やアルコール摂取が複合的な要因の一つとして一定程度関与していた可能性があることは否定されていない〔甲B6[5]〕。)。 以上によれば,本件摘出手術前につき,原告が本件事故によりその労働能力の一部を 喪失したとまで認めることはできない。 イ 本件摘出手術後 原告が本件摘出手術により脾臓を摘出されたことは,前記前提事実のとおりである。 そして,脾臓の摘出により,小児ほどではないにせよ,易感染性,易疲労性が亢進する 可能性があることを考慮すると(甲B3[4]),その労働能力喪失率は腹部臓器の機能 に障害を残すもの(後遺障害別等級表の第13級11号)として9%,労働能力喪失期 間は17年とするのが相当である。なお,原告は,G勤務当時の年収が各年3%の割合 で増加した場合の金額である752万1338円を基礎収入額とすべき旨の主張をす るが,原告の当時の年収額やこれが上記の割合で増加することを認めるに足りる証拠は ないことから,賃金センサス平成20年男性学歴計(45歳から49歳まで)平均賃金 である689万3900円を基礎収入額とするのが相当である。 以上によれば,原告の逸失利益は699万5026円(689万3900円〔基礎収 入額〕×11.2741〔ライプニッツ係数〕×0.09〔労働能力喪失率〕)となる。 原告は,本件摘出手術後,本件事故による衝撃により,全身に倦怠感が出現し,就労 が困難になった旨の主張もするが,① 本件摘出手術後の経過は良好であること(甲A 3),② 原告は,解雇後,株式会社Qに入社しコイルの製造ラインのオペレーターと して稼働していること,また,原告自身,本件事故による衝撃から立ち直り,全身の倦 怠感も多少改善した旨の陳述をしていること(甲A12),③ 原告は,本件摘出手術 前から頚部痛等の神経症状があった旨述べていること(甲A3[55,56])などか らすると,脾臓の摘出による易疲労性を超えて,原告の全身に倦怠感が出現したとは認 められない。  慰謝料 前記のとおり,① 被告病院の医師らの過失により,原告の腹腔内に本件タオルが約 25年間にわたり残置されたこと(本件事故),② 原告は,本件事故により,平成2 0年5月9日から同年6月21日まで,F病院に入院したこと,また,原告は,本件事 故により,本来必要ではない本件摘出手術を受け,その際,脾臓が摘出されるに至った ことが認められる。かかる事情に加え,原告は,本件摘出手術を受ける際,F病院の医 師から,腹腔内に巨大な腫瘤がある旨の説明を受け,それ自体により相当の衝撃を受け たと推認されることなど一切の事情をも考慮すると,原告の本件事故に係る慰謝料は3 00万円とするのが相当である。  弁護士費用 本件事案の難易,審理経過,請求額及び認容額等を考慮すると,弁護士費用としては, 100万円を本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 3 過失相殺について 被告は,本件において過失相殺をすべきである旨の主張をするが,全証拠によるも 過失相殺を相当とする事情はうかがわれず,被告の上記主張は採用することができな い。 4 除斥期間,時効について  民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,「不法行為の時」と規定されており,加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合,加害行為の時がその起算点となると解するのが相当である(最高裁平成18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁参照)。そして,本件については,本件事故の日から本件訴訟の提起まで25年以上が経過しているのであって,不法行為に基づく損害賠償請求権については除斥期間が経過したというべきである。 なお,原告は,除斥期間の起算点は,腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日である平成20年4月又は同年5月26日以降,若しくは加害行為が終了した日(本件摘出手術の日)の翌日である同月27日である旨の主張をするが,被告病院の医師らが原告の腹腔内に本件タオルを残置することにより加害行為は終了し直ちに損害が発生することに照らすと,原告が腹腔内に腫瘤が存在する旨の診断を受けた日や,本件摘出手術の日が除斥期間の起算点となるとは考えられない。原告の上記主張は,採用することができない。  被告は,原告の債務不履行に基づく損害賠償請求権につき,時効により消滅した旨の主張をする。 しかしながら,債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は権利を行使することができる時から進行するところ(民法166条1項),ここにいう「権利を行使することができる時」とは,単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく,権利の性質上,その権利行使が現実に期待し得ることをも必要と解するのが相当である(最高裁昭和45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁参照)。 そして,原告は,本件摘出手術の実施によって初めて本件タオルの残置を知り,その権利行使を現実に期待し得るようになったのであって,平成20年5月26日以降において債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行するものと解されるから,原告が本件訴訟を提起した平成22年5月21日までに消滅時効の期間が経過していないことは明らかである。被告の上記主張は,採用することができない。 5 結論 以上によれば,原告の請求は,1102万5186円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年6月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるというべきである。なお,仮執行免脱宣言の申立てについては,相当でないから,これを却下する。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官 森 冨 義 明 裁判官 大 澤 知 子 裁判官 西 澤 健 太 郎 

医療過誤・弁護士・医師相談ネットへのお問い合わせ、関連情報

弁護士法人ウィズ 弁護士法人ウィズ - 交通事故交渉弁護士 弁護士法人ウィズ - 遺産・相続・信託・死後事務 法律相談窓口

ページの先頭へ戻る