重度の全身熱傷の患者に対して,デブリードマン(外科的壊死組織切除術)を行う体制の整った医療機関に速やかに転送すべき義務を怠った事例
宮崎地裁 平成29年1月25日判決
事件番号 平成26年(ワ)第333号
本件は,自宅の浴槽において意識を喪失し,被告病院に救急搬送され入院,その後大学病院に転院して処置を受けたものの3週間後に死亡した患者について,その相続人である両親(原告ら)は,被告病院の担当医師には,亡患者が全身熱傷を起こして重度熱傷の状態であったのであるから,重度の全身熱傷の患者についてデブリードマン(外科的壊死組織切除術)を行う人的物的体制の整った医療機関に亡患者を速やかに転送すべき義務があったのにこれを怠ったなどと主張し,被告に対して,診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
裁判所は,担当医師には,亡患者に対するデブリードマンを実施する人的物的体制の整った医療機関への転送準備を行わなかったことについて過失があるとしたが,一方で,仮に担当医師が原告ら主張の時点で転送準備に着手していれば,亡患者がその死亡時点においてなお生存していたことについては相当程度の可能性があったとはいえるものの,それ以上にその高度の蓋然性があったとまでは認められないとし,本件の診療経過や被告の過失の態様等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡患者が被った精神的苦痛に対する慰謝料相当額を認め(原告らは同慰謝料に係る損害賠償請求権を2分の1ずつ相続した),その余の請求については棄却した。