下垂体卒中を発症した下垂体腺腫により救急搬送され,経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出手術を受け,両眼を失明した事例
下垂体卒中を発症した下垂体腺腫により救急搬送され,経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出手術を受け,両眼を失明した事例
大津地裁 平成27年1月13日判決 事件番号 平成24年(ワ)第310号
本件は,下垂体卒中を発症した下垂体腺腫(以下,「下垂体卒中」という。患者の下垂体卒中は,非機能性腺腫であった。)により,被告病院に救急搬送され,入院し,経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出手術(以下「本件手術」という。)を受け,両眼を失明した患者が,被告病院の担当医師が,①本件手術において患者の視神経を欠損させてはならない義務を怠った過失,②下垂体卒中を発症し,視覚障害,動眼神経麻痺が生じたときには,直ちに本件手術を行わなければならない義務を怠った過失,③適時に視神経の再生を促す効果のある薬を患者に処方して視神経の回復を行うべき義務を怠った過失を主張して,診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく慰藉料等の損害賠償を求めた事案である。 裁判所は,患者の両眼の視力は,本件手術前に急激に低下したものと認められ,本件手術は,手術用顕微鏡を使用するハーディ法によってなされたものであるから,本件手術器具により視神経を傷つけることは考え難いとし,被告医師らには,下垂体卒中発症後24時間以内に本件手術を行う法的な注意義務は課されていなかったのだから,これを怠った過失を認めることはできないとし,その他各注意義務違反に関する患者の主張には理由がないとして,本件請求を棄却した。