無痛分娩のための硬膜外麻酔を行うに当たり,放散痛についての説明・指示を怠り,過失により馬尾神経を損傷した事例
無痛分娩のための硬膜外麻酔を行うに当たり,放散痛についての説明,指示を怠り,かつ過失により馬尾神経を損傷した事例
東京地裁 平成20年7月25日判決
事件番号 平成17年(ワ)第22085号
本件は,被告病院において女児を出産した原告が,担当医師が無痛分娩のための硬膜外麻酔を行うに当たり,事前に放散痛についての説明,指示を怠り,かつ放散痛の有無を確認することなく硬膜外穿刺,カテーテル挿入の手技を継続した過失により,硬膜外針又はカテーテルで馬尾神経を損傷し,腰背部痛や下肢のしびれ等の症状を生じさせたとして,不法行為(使用者責任)ないし債務不履行に基づき,損害賠償を求めた事案である。
裁判所は,担当医師が行った説明・指示は,神経損傷の発生を防止するという目的に照らして十分な内容であったと認めることができ,硬膜外麻酔を行う前に放散痛についての説明・指示を怠った過失,原告が放散痛を訴えたのを看過し,放散痛の有無を確認することなく,硬膜外穿刺・カテーテル挿入の手技を継続した過失があるとの主張は採用することができないとし,また,原告の主張する症状のうち,腰痛については,硬膜外麻酔に伴う不可避の合併症である一過性の腰痛が,被告病院に対する不満やストレスなどの要因もあって遷延している可能性もあながち否定することはできないし,下肢の痛みやしびれ等については,これが担当医師による硬膜外麻酔によって生じたものであるとまでは認めることはできないとして,本件請求を棄却した。